夜さえ白い ーーミッドサマーーネタバレ注意
※直接書いてないけど何となく予測つきそうには書いてるのでネタバレ注意です。。
見たら150日ぶりのこちらです。
観てきたミッドサマーディレクターズカットのやつ。
前情報では観ると鬱になる、主人公に同調して辛い又はスッキリして罪悪感又は爽快、映像が綺麗…などなど聞いていたこの作品。ストーリーにも興味あったしそっちを外しても綺麗な映像を観られたらいっか、くらいの気分で行ってきました。
観た後の率直な気持ち「うーん……」
人間って真っ白な部屋にいると気が狂うってよく言うけど、この映画もそんな感じ。ホルガの住人達は『死』は明るいもので『殺し』さえも正統なんですよね。料理の異物混入(隠毛とか経血)も発情の意思表示、めでたく喜びの行動だしわざと近親相姦して障害者をつくるし。
この人たちはいろんなことを極力『ポジティブ』『肯定』『白』として受け入れてるんだなと思うんですよね。ものすごく独善的で側から見ると病的。
だけどそうして生きていくと多分、喜怒哀楽という感情の起伏のない、『楽』の精神状態のまま生きてるんだろうなと思うんです。(この『楽』を保てない人はコミュニティから脱落(殺される)してるんだろうね)
するとどうなるか。
ここの住人の場合、喜怒哀楽が娯楽なんですね。エンタメというか。
主人公の泣き叫びとか処女喪失の喘ぎとか投身して死に損なった苦しみも火に焼かれのたうちまわる苦痛も、同調して擬態してたけど、あれ多分性的快楽に極めて近い感覚を感じる癖になる娯楽なんだな。彼らにとって。
勿論彼らはそれを娯楽なんて思ってはいなくて、コミュニティとして重要な共有ってことなんだけど。
登場人物に、このコミュニティ出身で、彼らの言う『巡礼』期間中で外で生活している男がいる。その男が友人を自分の田舎で90年に一度行われる行事に誘うって流れなんだけど、こういう風に違う世界を見ながらも影響を受けず、連れて行った知人の処遇も承知の上で、それでも己の出身であるコミュニティを信じきってるやつが一番すげーなって思いました。多分、巡礼に出てそのまま戻らない人もいるんじゃないかなとか思う。なので外部の者、要するに『生贄』『外からの血』を引き連れて戻ってくる人はこのコミュニティでは英雄で優秀な家族ってことみたい。こいつ主人公とくっつきそうな予感がするな。
主人公の生きてきた環境、育まれた性格や行動形式が冒頭説明され、恋人との関係がどうもうまく行ってないこともここで語られて、だからホルガでの衝撃的な出来事も慣れて仕舞えば、恋人とでさえ叶わなかった自分への『同調』『共感』をここで得られる事により、すっかりホルガに馴染みきっちゃうんだな。ホルガの人たちにとっては遺伝子的にも定期的に受け入れたい歓迎すべき『外部の血』が爆誕しました。メイクイーンにも選ばれたし、しばらくは優遇されたのち、ここの男達の子供を産むことを求められるんでしょうね多分。
でね、この作品の続編があるかどうかはわからないけど、もしあったとして…。ホルガの住人達との同調や共感、それによる心の補完をされた後、これが実は他者に対しての搾取である、という事に気付いた主人公の、或いは新たにここに招かれ今回の主人公のように溶け込むことのできなかった、新たな主人公の『告発』と『懺悔』、『憤り』とコミュニティの破壊、そして本当の意味でのカタルシスが本編なのでは?と思うんですけどどうですかね?
以上が感想ですけどもう少し日にちが経って思うことが出てきたら加筆するかもしれないな。そう言えば、綺麗な映像の件だけど映画自体の時間は三時間と長いのに、映像についてさほど感動もなかったのは残念…。黒澤明監督の夢って作品の方が綺麗な映像として印象に残ったよなって。
基本的に何かに対しての好きも嫌いも怒りも悲しみも 、己一人で充分没頭できるって人には、この作品こそが『一風変わった文化をチラ見する機会』で『娯楽』なのかも。