憧憬〔シオン ムウ シオムウ〕
261と261/18のシオンさんについてぶつぶつと考えていました。
前回のエントリにも書いてますが、261と261/18の思考や行動を極力同一にしたいんですよね。それが甦った後のシオンさんの理想像なんですががが。なかなか難しい(´・ω・`)
校了待ちに和もうとシオンさんの画像をぐぐってました。なにみてんですか?と後輩につっこまれたんですけど。いいじゃん。ちゃんと仕事はしてますよ?
校閲もしないだだっと打ちであんな事があった老シオンさんの寝起き。
むう、もうちょっと深く掘り下げたいところですがまずはここまで。
* * *
目が開いて、私を覗き込む幼い顔がそこにあった。
目が合えば何を置いてもまず「お師さま」と私を呼ぶ者が、今はただ静かに、大きな瞳に私を映している。「…いかがした」とその白く丸い頬を撫でるとふと目を細めそのまま。私の手に頬を擦り寄せ「おおきになるの?」と幼い声で言った。
窓にはまだ明けぬ空。しかし常夜の炎は衰えて、じりじりと音を立てている。そろそろ起床の時間は明確で、私は老いた身を起こし肌蹴た袷をそのままに深い溜息を吐いた。昨夜のあの、夢は一体何だったのか。感慨に己の右手を確かめて、とろりと絡むあの蜜の様な色の髪を思い出していた。あの感触を。あれは本当に夢だったのか。あの唇もあの腕も。あの身の奥の熱い愉悦も。そしてこの、今朝に残る気だるい余韻も。
まるでたった今この身に起きている事実の様に思い起こす事が出来る。この手で触れた瑞々く若さに満ちたあの肌が私の老いた身に絡み、熱く滾る欲を確かめて、弾ける精を手に受けた。蕩ける身を私に寄せたあの者は、愛しいと慈しみ育てた幼子の後の姿だと言われずとも分かろうものを。
この身は、ただお1人に。私が慕うただお1人に。
甘くこの耳に届いた呟きが一時の夢とはどうにも思い切れずしかし、不思議な事実とも確かめる術も無い。そう思い遠くを見ている様な私を見詰める幼子は、ふと私の胸元に指を触れた。
「ここ」
小さく首を傾げ「いたい?」と聞いた。ゆるりと視線を幼子に向け「何?」と問うと「ここにおけが」と言うのだ。怪我?と己を顧みて、思わず胸がどきりと上がった。
其処何処に残った赤い痕。確かめる様に触れるとじんと余韻が甦るこの吸い痕は。すと寝台を下りて脇にある蝋燭に常夜の炎から火を移し、そのまま更衣の間に置いた鏡に向かい合う。首元に。鎖骨の上に、胸元に。ぽつりと残った昨夜の証拠。あれはやはり。
「…不思議の子よ」
行く末から来た私の養い子は私を愛したという。美しく育った若さの盛りの身を組み敷かれる事も厭わずに、ただ一途に己の師を慕ったと。聖戦の前の、命の火が燃える一時を老い衰えたこの師を愛す。その様な事が訪れたかと改めて鏡に映る己の姿を見るのだ。
いつかこの身にあった、全盛の若さとそれを際立たせた驕りの輝き美しさならば、お前に応える事ができるだろうか。
あの者の名残の痕を辿る己の手の細さは、若き日の面影すらもう無いと、知らす己を小さく笑う。その時にとん、と優しい衝撃に視線をやると私の愛し子が何時の間にか傍にいて、小さい身体を精一杯伸ばしてぎゅうと私に抱きついているのが見えた。その小さな背を温める様に撫でさすりながら「これ、いかがした」とゆるりと問うと高く幼い声が「およびになった?」と言った。
「むうと」
「…そうか」
その身体を抱き上げて「呼ばれたか」と言ってやると「はい」と大きく頷いた。「ちゃんと来たか」と額を撫でると「はい」と笑い返事が返る。その素直な様に、ならばあの不思議も私が呼んだのかも知れぬと心当たりを今更ながら思うのだ。
私はこの者の、若さの盛りの命の全うを、見届ける事ができただろうか。聖戦で死ぬ為に育てられたこの素直な命の散る様を、最後まで寄り添い見詰めてやる事が出来たのだろうか。
愛おしい、これが惜しいと、この慈しみをいつか超える。近くそんな未来が訪れる予感が確かに胸にある。目の届かぬ地の底で知らぬ者の手に掛かるくらいなら、今この内にこの師が自ら。そう思う程にはこの者を、既に愛おしいと思っているのだ。
この師が好きかと問いかけると、私の愛し子は伸ばし始めた髪を肩口で揺らしながらはっきりと大きく頷いた。「そうか」と私も頷いて、この一時、老いた師を素直に慕う愛し子と、過ごす時の一瞬すら惜しいと小さく熱いこの身を強く抱き締めた。
* * *