areaFree

黄金聖闘士二次創作とたまにたわごと。ほとんど腐。羊師弟と兄さん's傾向。最近メモ化。お気軽にお声掛け頂けたら嬉しいです。

情敵1[シオン ムウ 貴鬼]

 世には様々な師弟といったものがある。涙を流し死闘を繰りひろげながら弟子への愛のあまり氷に活けてしまったり、山奥の大滝近くの土地を1日に何ヘクタールも畑を耕す弟子を見守る娘を更に見守る師であったりと。 

 12宮の師弟関係は多々あれどもこの弟子も我が師が一番美しく強靭、鮮烈であり女神の金がよく似合うもの、とご多分に漏れず思っている。ここは黄道12宮、牡羊座の聖闘士が守護する一の宮である。

 弟子からは随分とべた褒めされる師ではあるが、当代牡羊座の聖闘士と弟子は聖闘士としての師弟関係の他に、修復と更に一族の父系制故の上下等様々な要素から、聖域で一二を争う厳しさ厳格さである事は土下座の例を出すまでも無く間違い無い。

 さて、慕う師におまけなどと言う渾名を付けられながらも、海の底へのお遣いと聖戦の時以外は片時も離れる事無く育てられ導かれ慈しまれた弟子も大きくなった。背も伸びて師と大差無くなっただろうか。そんな思春期真っ只中の弟子には気になる事がひとつあった。それは今気付いた訳では無い。数年前から気になっていて、しかし子供だったので深い考えに及ばなかっただけだ。弟子はそっと己の師に視線をやった。正確には己の師と、師の師に、である。

 先程述べた様にこの弟子の師は牡羊座の聖闘士なので当然ここ一の宮・白羊宮にいるのであるが、師の師と呼ばれる人もまた前牡羊座の聖闘士との事でふらりとここに来る事がある。我が師が言うところによると「幼い頃に死に別れ、修復の導きが済んでおらぬ」という事らしい。成程、弟子の目には淡々と修復をこなす師も夜中書物に埋もれあちこちを心当たりに訪ね歩いていたのは、教えてもらい損なった知識の欠片を自身で拾い集めていたからに他ならぬ、やはりこの師は凄い人なのだと認識を新たにする弟子ではあるが、それにしても。ここ数年、師の師であるあの人が我が師に修復の導きをしている場面等、いやそもそもここ数年道具を手にしたところ等見たことも無い。はて一体この人は、我等が御主でおわします女神アテナの近侍、地上に於ける女神の代行・司祭にして聖域の長である教皇猊下は何しにここを訪ねるのだろうか。だってもう修復の導きは済んでいるのでしょう?

 その様に己の継の継に思われている教皇猊下は今はさらりと一族の衣服を身に纏い夕に湯浴みしたらしくその長い髪を濡らしていた。普段は小宇宙の漏れか後光もかくやと言わしめる程の豪奢なクセのある髪はしっとりとして、布で丁寧に水気を拭き取られている。弟子に。弟子とは当代白羊宮の主の事である。師が2人弟子が2人いるとややこしい。

当代白羊宮の主が手馴れた手順で己の師の髪を拭き乾かしているのである。乾いたところから跳ねていく師の髪の形を己の満足がいくまでつんつんと手直しをして、ふと首を傾げた。もっと傍にいれば「…ふむ、こんなところか」という呟きが聞けたかも知れない。使用した布の始末に奥へ行く前に先代白羊宮の主にして当代教皇猊下が手にする蒼い瑠璃の杯にとくとくと酒を注ぎ布を持ちすと離れた。戻った時には布の替わりに手には肴が乗った盆を持ち、ことことと前代白羊宮の主にして(以下略)の前に丁寧に並べていく。そうされる先代白羊宮(略)は特に労うまでも無く当然の様に持て成しを享受しているこの一連。この様な事もまた弟子の務めなのだろうか、それであれば己は随分と怠惰な弟子であった事、己の師である当代白羊宮(略)はそれらをしない事について特に何も言わぬがこれは弟子として由々しき事ではないだろうか。そう若き弟子は考えた。

 

 それから数日。師の師は自身の宮である教皇宮に戻り今は通常通り白羊宮の師弟が2人、いつもの様に過ごしている。書物を読んでいた弟子が何気なく顔を上げるとどうやら師は湯を使ったらしい。濡れて何時もよりつやりとした髪を布で包みきゅうきゅうと水気を絞り落としている様だ。「ムウ様」と弟子が師を呼んだ。

「ムウ様、我が師よ」

「何です、貴鬼」

「それ…」

「それ?」

「私がやりましょう」

「…何を?」

 何を?と聞き返されてしまった。いえ、その御髪を拭きましょうか?と問うと「どうして」と返る。弟子は首を傾げた。

「それも弟子の務めと、その様に」

「その様な。私は教えた憶えはありませんよ」

「いえ。自らしておられたではありませんか」

 数日前、いやもうずっと前から御自分の師の御髪を貴方様が拭いておられたではありませんか、私は気の利かぬ者故にご不便をお掛けしていたのだと思い至りました。なので。

 己の弟子の言い分を聞き終らぬうちに大きな目を見開いた師は布で自分の髪をわしわしと拭きながら「…あれは」と言った。

「あの方はああいったところにはてんでずぼらというか…」

「…ずぼら…」

「あのまま宮をあちこちされては床が濡れるし」

「はい」

「大事な書物だってあるので、水が駄目な素材も」

「水が掛ると変異する物もございますね」

「そう、だからして差し上げているまでの事」

「はい」

「お前が私にぜずとも良いのです。自分で出来る」

 しなくても良いと言う師に日頃の気遣いの無さを思われているのではないかといった不安はどうやら取りこし苦労であったらしいと弟子はそっと息を吐く。しかし、きっぱり無用と言われると、それはそれで何とも言えない思いが新たに湧いてくる弟子であった。