areaFree

黄金聖闘士二次創作とたまにたわごと。ほとんど腐。羊師弟と兄さん's傾向。最近メモ化。お気軽にお声掛け頂けたら嬉しいです。

幻十の夢〔浪蘭幻十 秋せつら〕

ピクシヴの方に「蘇生され目を覚ました幻十の後を追ったせつら」を書いてたんですけど「後を追わなかった」バージョンを今ちまちま書いてます。ちまちま。その冒頭をこそっと。なんか文字が連なるだけの自己満足です…いいのいいのです。

幻十「君のいない世界をぼくは知らない」

せつら「僕は二度、君のいない世界を知ってる」

までたどり着けるか!?己の根性を試してみようとおもいます…

 

 

***

 

 彼は途方に暮れていた。

 

 15年を暗闇の中でこんこんと言い聞かされていた宿命の、後の事など教えられてはいなかったからだ。だから彼は分からない。目を開けた後どうすれば良いのか、何処に行けば良いのかわからない。ただここは病院、あの白くて黒い院長がいる病院だとは思っていた。

 天井は見えない。取り囲む壁も、音ひとつない。腕を上げ指を5本確かめた。彼の左腕は添え物を当てられ針が差し込まれていて、布一枚が肌に触れていた。

 

 何故。

 

 魔界医師の処置室。ここはこの病院のどこかに確かにあるのだろう。明確な場所等誰も知らない黎明の闇。ここは永遠の暁だ。己の血が持つ深淵の闇と似て全く非なる、明けを待つ闇だ。目に染みる程のだ。

 

 何か忘れている気がするな。

 

 しかし忘れてしまったのなら、それは大したものではなかったのだろうと彼は思った。ただ、目を開けてしまったからにはここにいる事はもう出来ない。それだけは分かっていた。

 

 いられないのだと悟ってからの彼は素早かった。ついさっきまで死んでいた者としてはの話だ。痺れるような感覚と滲むような自我が入れ物に突っ込まれていた。その入れ物は肉で出来ていて赤黒い液が廻るように作られた物だ。もしその徘徊を目撃した者がいたなら、白く美しい裸体が木の葉のように軽々と滑り降りたと思うだろうか。鉛のような入れ物を引き摺るように進む彼を。

 徘徊の果てに着いた彼の最後の場所は深更に暗く、感慨等何も持ち得ない。予定調和だ。最後の死闘を繰り広げこの首はここで切り落とされた。全ては15年以上前に、いや、もっと前からかもしれない。この街のアカシックレコードに刻まれ確定していたのだ。そんな物があるとしたならの話だが。しかしこれだけは断言できる。勝敗も何もかも己の父は分かっていたのだという事をだ。宿命の結実の、その先を父は倅に語らなかった。

 空は暗い。そこから確かにひとつの首が落ちてきた事があったのを彼は思い出していた。落ちた首は幾度か何処かに当りコンクリートに跳ねアスファルトに転がっただろうか。美しいと言われた事もあった首はその鱗片すら残してはいなかった。

 いや。と彼は小さく首を傾げた。血乱れて脳髄が散ったひしゃげた首は己の真の姿だ。生まれ数年の後に出来の悪さを父に嘆かせた出来損ないだ。それが自分だ。

 父はこれではならぬと焦っていた。向こうの家の子と比べ明らかに役者不足の己の子を持て余していた。しかし最後はこれしかいないのだからと考えたのだろう。その出来損ないしか己は持ち得なかったのだと。その結果が地の中での15年だった。

 この子は弱い。猫どころか虫一匹殺せぬ性根を変えねばならない。大義の前に全てを蹴散らし自身の流血さえ厭わぬ者に育てねばならない。勝つならより凄惨に。死ぬならより一層の惨劇を。贔屓目に見ても勝つ見込みのない己の倅がせめて見事に終焉を仕出かせる様に。せめて数日はあちらの家の子と死闘を演じ渡り合える様に。

死闘と彼は乾ききり枯れ果てた喉で言おうとした。

 違うと彼は思う。あれは死闘ではないのだ。あれは供物を捧げる儀式だった。あの家と共に選ばれた時から、己の家はこの街の好む弑虐と痴態を演じ血を滴らせる肉塊の供物と化したのだ。最もな非情最もな逆説と痺れる様な苦痛、そして熱を帯び発酵する血潮を好むもの、それが魔界都市。何代もの両家の当主がそれを献上し続けたのだ。何のためにそんなもの知らない。ただ魔界養生の果てに現れた封印を、己の身に飲み込み沈ませる名誉を手にしたのは向こう側の家の子だった。それならば。

 

 何故、ぼくは生きている

 

 蘇生から目覚め数時間後に、答えるものなど無い問いに彼はやっと思い至った。