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黄金聖闘士二次創作とたまにたわごと。ほとんど腐。羊師弟と兄さん's傾向。最近メモ化。お気軽にお声掛け頂けたら嬉しいです。

行方〔ムウ アイオロス〕

 神代から続いた聖戦は、エリシオンに安置された冥王ハーデスを討ち冥界崩壊をもって当代女神アテナ勝利に終結を向かえ、オリュンポスの仲介を受け双方の復活をもって手打ちとなった。 聖戦より13年前に双子座の業により起された聖域の数度目かの乱に命を落とした真教皇は聖戦後の復活を受け聖域に舞い戻り数年。冥界との関係修復、オリュンポスや古の神々との折衝に女神の補佐として立っていたが、それらもやがて落ち着くと聖座の返還、つまり譲位を御主女神に申し出、次代の教皇には聖戦前の宣誓の通り人馬宮の主を指名し聖域を去る。今後は一族の元へ戻り、長として一族の建て直しと女神の技を末永く繋ぐ事を己の使命とし、二度辞退し三度目には女神自らに乞われた聖域の相談役の名は拝命すれど常にはジャミールに身を置く事となった。

 ムウ、と名を呼ばれた白羊宮の主が振り向くとそこには数日前に聖座に着いた先代の人馬宮の主の姿があった。ほんの少し前までは己が身近に仕えた師が纏っていた教皇の法衣を他の者のが身に付けている。その事にやはり少しの寂寥を感じるのは止めようがなかった。

 「あまりそう見ないでくれ」

  似合ってないのは重々承知しているんだからと新教皇が笑う。その笑顔にこれからの聖域は本当の意味で新しくなるのだろうとムウは思う。聖戦の無い聖域。聖戦の無い聖闘士はこれからどの様な大義を持って存在していくのだろう。しかしそれを口にはせずにただ「我が師が200年前に初めてそれを纏った時も着慣れぬ見慣れぬものだったと言っておられた」と応えるとアイオロスが苦笑いに肩を竦めた。

 「明日の貴鬼の牡羊座拝命、一の宮拝領の式は見届けるのだろう?」

「…ええ。別にと思っていたのですが、それも師の役目と」

「弟子に厳しいのは白羊宮の倣いなのか」

  今度はムウが肩を竦めた。

 「存命で譲位した教皇、聖闘士の座を返上した白羊宮。全てが初めてずくしだ」

「…お前は良いよなと、言われましたがね」

 聖闘士を辞しても手には女神の技がある。戻れば一族があって、女神の技を繋ぐ使命がある。数日前にぽつりと言われたその言葉に、確かに己は恵まれていると妙に頷く気分になったものだ。そう、思えば私は恵まれていたのだろう。

「師を討たれたとは言え、その師の配慮で私は偽りの施政から離された」

「…ムウ」

「辛くなかった訳でも泣き喚かなかった訳でも無い。でも」

 私は何時でも私の心のままだった。悲しい、辛い、恋しい。悔しい、憎い。そう思い続けたとしても、それは己の心のままだったのだと確かにそう言い切れる。それがどれ程に苦しい事実であったとしても、事実を確かに知っていたのだ。

教皇としてではなくアイオロスとして、英雄と言われる事をどう思います」

 アイオロスとして。そう問われアイオロスはムウを見て、それから丘から聖域を見下ろして「私は英雄等ではないのだよ」と言った。

「赤子を守るのは人として当たり前の事だった。それが女神ではなかったとしても」

「…ええ」

「大罪を犯そうとする親友を止める事も、立場等関係ない。…同じだよ」

 全ては成り行きであったのだとアイオロスは笑んで「お前はどうだ?真実を知り当代女神の元に一番に馳せ参じた、正義の者よ」と呼びかける。13年前には事実を知らぬ者たちに聖域に離反した牡羊座と天秤座に天誅を等と言われていたものを、乱の真相が知れる途端に「正義の者」とムウは呼ばれる事となっていた。神代に無実の兄妹を助ける使命を全うした金の羊の属を引く見事さよ。そう言われる事には正直嫌気が差していた。反論をせず無言でいたのは、ただ己の師がそれをとても、とても喜んでいた事を知ったからだ。

「成り行きです」

「だろう?」

「ただその様な、役目であった。それだけと」

 あの時に首謀者となった者も、その手に掛かった者も。共謀者と呼ばれる者も聖域に残った者も。許せぬといい続けた己にいつか「全ては役回りであったのだよ」と幼子に言い聞かせる様に言った師の言葉をムウは思いだす。今なら師の言葉を素直に飲み込めるだろうか。

 「役得と言えるのかな?」そう言ってまた笑うアイオロスに「…全く、聖座に着く者の言葉とは思えませんよ」と今日を限りの白羊宮の主もまた、屈託無く笑うのだった。

 

 * * *