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黄金聖闘士二次創作とたまにたわごと。ほとんど腐。羊師弟と兄さん's傾向。最近メモ化。お気軽にお声掛け頂けたら嬉しいです。

Never Die〔蟹座〕

ヤワな人生など、送っていない。

そう言える生き様を残したいものです。

 

 * * *

 

 聖戦で死んだ聖闘士は冥界の奥、永久凍土に身を呑まれ魂さえも囚われる。そこは魂のサイクルが届かぬ氷の世界。絶対に出る事の叶わぬ聖闘士だった者達の檻。そう聞いた時に思った事はといえば「それじゃあ聖戦の数だけ死んだ聖闘士が氷の下に犇めき合っているのかよ?」と「神なんてろくなものじゃあねえな」って事くらいだった。 

 

 今更気付くなんてお人よしねえ

 

 けたけたと馬鹿にした様に笑いながら、さっきから俺に話し掛けているコイツは何なんだ。そう思い辺りを見渡そうとしてもう出来ない事を知る。

 

 どっちに付いて参戦したって、死ねばここにたどり着く

 

 何もかも忘れて眠る分には静かで良い場所よ、と囁いた。なんだてめえ、まさか慰めてるんじゃないだろうな。ひと目声の主を見てやろうとして目が開かない事を思いだした。目だけじゃねえや。口も開かない。そう言えば俺はどうやって此処に来たんだった?そう思う傍から何かしらを忘れていく様で、頭の中に空白が増えている気がしていた。このまま、此処で。俺は。此処は。

 

 どこだ?

 

 どこだと己に問うた時、いつか聞いた話を思い出した。まるで子供に御伽話でも聞かせている様な声で聞いた。聖戦で死んだ聖闘士は冥界の奥、永久凍土に身を呑まれ魂さえも囚われると。そこは魂のサイクルが届かぬ氷の世界。絶対に出る事の叶わぬ聖闘士だった者達の檻だと。そう聞いた時に思った事はといえば「まるで聖闘士の冷凍保存みてえだな」と「神なんてつくづくろくなものじゃあねえな」って事くらいだった。

 

 へえ。アンタ。面白いこと言うのね。 

 

 馬鹿にした様に感心しながら、さっきから俺に話し掛けているコイツは何なんだ。この音の無い世界でどうしてコイツはぺちゃくちゃと話してるんだ?

 

 遠い魂は待ちくたびれて擦り切れた。あたし達は、そうね。

 

 お呼びが掛るまで眠る分には静かで良い場所よ、と囁いた。なんだって?俺らはお役目御免、用無しでここに捨てられたんだろう?何をいってやがると聞こうとした。声が出たなら聞いただろう。そう言えば俺はなんで此処に放り出されたんだった?闘った?誰と?俺は誰と戦ったんだ?そう思う傍から頭の中にひたひたと白い闇が広がっていく気がしていた。忘れていく。まるで胸のうちを漂白されて良くかのようだ。このまま、此処で。俺は。此処は。

 

 どこだ?と問うた時、凍りついたこの体中に響く衝撃は、なんだ?「ああ、時間がきたようね」と確実に今、耳に聞こえたこの声は。

 

「呼んでいる」

 

 言われ足元を見た。鏡の様な氷が広がるここは地の果て永久凍土。聖闘士達の氷の檻。辺りを見ると深い深い蒼の闇と白い氷山。そこに俺は今、立っている。もう一度足元を見ると氷の底には無数の黒い影が見えた。氷に呑まれ下へ下へと戒められた、聖闘士の影。俺もあの様に氷の下に囚われていた筈ではなかったか。確かめる様に自分の掌を見ていると「アンタ、どうするの?」とその声が聞いた。

 

「行ってもソンな役回りよ」

「…何を知ってるんだ」

「そうねえ」

 

 聖戦が始まった。これだけかしらね。そう言った。永く続いたわね、と言い「でもこれで、全て」と言う。お前は誰だ?と問うと「アタシ?」と返る。

 

「アタシはしがないただの、棺桶屋」

「かんおけ?」

「…行っても、ソンな役回りよ?」

 

 それでも行くの?と言われても。

 

「…行かねえ選択肢、あんの?」

「…ないわねえ。聖闘士なら」

「じゃあ、仕様がねえじゃねーかよ」

 

 損な役回りなど、今更じゃあねえかと呟くと「それもそうね」とそいつが言った。

 

「ヤワな生き方など、送っちゃあいねえ」

「素敵ね。シビれちゃう」

「茶化すなよ」

「本当の事だ」

 

 この聖座の生き様を、一番知っている者の中の、俺は1人だからな。

 

「……。アンタ…」

「行ってこい」

 

 もう一度、此処に落ちてきたら、両手で受け止めてこの胸に抱き締めてあげるわん!よくやったわってイイコイイコしてあげるから、行ってらっしゃいな!

 

「…アンタが巨乳のお姉さんだったら大歓迎なんだけどな」

「生憎雄っぱいしか持ち合わせてないけどいいわよね?」

 

 胸に届く衝撃が焦燥となって俺の身体を突き動かした。ああ、わかったようるせえな、今行くから。何処に向かえばいいかなど聞かなくても俺は知っている。聖戦の前哨に主を裏切り粛清された魂の使い道等、綺麗事であるはずが無い。だけど。今更だぜ。

 

 そう、今更だと知らず俺は笑っていた。そして呼ぶ声に引かれ走り出した。