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黄金聖闘士二次創作とたまにたわごと。ほとんど腐。羊師弟と兄さん's傾向。最近メモ化。お気軽にお声掛け頂けたら嬉しいです。

野分〔アイオリア シャカ〕

台風が夕方に熱帯低気圧にクラスチェンジちょい格下げの今夜です。

雨が好きなので、雨音聞きつつだだっと打ち。推敲?堂々としてません。オチもないだらだらと獅子と乙女が無駄話…。261と20の追いかけっこの件はやっぱり8つが周囲にリークしてますよって小話…。

 

 * * *

 

 陽が地平に触れる時刻から拭き出した風は、常夜の炎が灯る頃には嵐の様相で、今は多量の雨を伴い12宮の丘を撫で上げている。居住区の窓から外の様子を見ていた獅子宮の主の背後から「…やはり君は、今夜は居座るつもりなのだね」と笑みを含んだ声がした。

「下は風が煩過ぎる」

 ここは何故か静かなんだと客人である獅子が処女宮を見渡した。

「静かなら双児宮もそうだろう」

 三番目の宮は迷宮だとか、出口が無いだとか、主の気ままに合わせて形を変える。それに静かと言うなら白羊宮もこういう日は、己の技で宮を囲っているだろうから、静かだろうとこの宮の主が言うのだ。

「しかし、夕刻に白羊宮の師が丘を下りて行ったから、今宵は師弟でいるのだろうよ」

 居候をするにはいささか間が悪いだろうなと言うシャカの声に、何か言いたげに視線を上げたアイオリアは小さく息を吐いた。「何かね?」と問われ「何も」と返す。「人の宮でもじもじと。言うなら早く言うが良いよ」と更に問われアイオリアはやっと重い口を開けるのだった。

「俺は未だに、兄とは元には戻れぬ」

 唐突に始まる話だった。シャカは小さく首を傾げ「そうか」とひと言。空いたアイオリアのグラスに酒を注ぎ、己のグラスにも少し足しながら続きを待った。

「どうにも、素直に兄に近寄れぬ」

 13年前に逆賊と言われ討たれた獅子座の兄は甦り、英雄とさえ称えられて今は三役、次期教皇とまで言われている。その様な者を身内に持って、弟は兄の立場の眩さを持て余しているのだろうか。しかし。

「アイオリア

「俺は未だ、様々な事を、忘れられずにいるのだろうか」

 それに引き換え白羊宮の主は、甦りのはじめは師に対峙して、見ている周囲が不安に感じるほどの緊張を帯びた様相が、いつかを境にふつりと緩んだ。特にこの前の定例の集いにムウが、己の師に13年前に途切れたままの継承の続きを乞うてから、師の私室である教皇宮の奥の間と白羊宮とを互いに行き来する親しさを見せている。13年前の乱では己もムウも1人の男に大切な者を奪われた似た境遇でありながらの今の差異に、思わず我が身と見比べて溜息を吐いてしまうのだ。

「女神が許し、兄が許した。それなのに」

 甦り仇の男を兄は許した。それどころが討たれ名を貶められたにも関わらずそれをした相手に「愛している」等と、周囲に憚ることも無い。己は未だ肉親を討たれ苦渋苦難に過ごした13年が水に流せぬのか。その兄を見て、己も許そう水に流そうとは思いながらもやはり、己の兄すらあちらを庇うかとつい思ってしまうのだ。我が身の狭量が情けないと呟くアイオリアにまたとくとくと酒を注いでやりながら「許せぬ事を責める必要などなかろう」とシャカが言った。

「そう簡単に割り切れるものでもなかろうよ」

「…そうだろうか」

「君達は、充分女神の希望を叶え、お互いの13年を敬い過ごしている」

 シャカの言葉にアイオリアはもう一度そうだろうかと呟いて、グラスの酒をひと息に飲み干した。シャカは更にとくとくと空いたグラスに酒を注いだ。嵐の夜に、滅多に口にしない酒を呑み、珍しく口数が多い知己と自身にシャカが気付いているかどうか。

「…離れているうちに、互いがすっかり自立して、あちらはあちらで求める相手がいる様なのだから。随分と急ではあったけれど、それが必然の、兄弟の間合なのだろう?」

 年々に段取りを経て人格が定まり自立の距離が出来る筈が、13年の空白の所為で性急に感じるのではあるまいか。そう言うシャカに「…為程」と酒をひと口含んだアイオリアは「ああ…そうなのかも知れぬ」とぽつり呟いた。

「それに白羊宮は、あそこは変なのだよ」

 あそこの人達は他はどうでも良いのだよ。恨み辛みもあっただろうが、結果養いの親とも慕う師が戻り、目に入れても痛くないと育んだ弟子が戻った。それだけでもう他はどうでも良いのだろうよとシャカが呆れた様に笑む。

「あんな親馬鹿子馬鹿になりたいかね?」

「…どうだろうな」

 そう言えば最近「お2人はこの前けんかして、作業場をぐるりと追いかけっこをしていました」と白羊宮の小僧が言っていたのを思い出す。「おいらには風が立つと銀星砂が舞うのだから静かになさいと言うのに」と。…ああ見えて実は261の人と20が追いかけっこ。

 楽しそうではある。幼い頃の兄はとても大きくて、その肩に腕に纏わりついたものだった。鬼ごっこと称して兄は幼い弟に上手に12宮の丘を走らせていたのだ。ああ、懐かしいなとアイオリアは目を細めながら、あの兄は今はもうしてはくれないだろうかと、少しだけ白羊宮の師弟が羨ましくも思うのだった。

 

 * * *