慕情〔シオムウ と童虎さん〕
兄さん'sの話が架橋すぎて進まないので羊も同時進行してたのですが、やっぱり兄さん'sが気になりすぎて羊も進まないので冒頭だけこちらにフライングしてみます。
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「弟子が寄り付かぬ」
二度の聖戦を越え、神々の都合と御主女神の希望により生き返ってから、二度目の聖域復興と冥界創世、共に生き返った12の聖宮共の心の養生も大体の目処がついた今、私の目下の悩みはあの弟子であった。久し振りに聖域に顔を出した昔馴染みと杯を傾けながらその事を何気無くこぼすと成程と2回繰り返し、童虎はにやりと私を見遣る。嫌らしい奴め。あれ等今では師である私よりも童虎を頼りにしている節がある。ああ、気に喰わぬ。そんな私の様子を見て、「教皇猊下は甦られた。我が師は戻らぬ」と、言うような事を前にあれは言っておったわい、と童虎が私を哀れむような目で言った。
「…意味がわからぬ」
「わからぬか」
あれを手元に寄せた時から私は教皇だったではないか。何を今更と言う私に童虎は更に目を細める。わからぬかのう…と呟いた。
「お主は公を立てすぎじゃ」
「仕様があるまいよ。私はまだ当分はここを治めねばならぬ」
「それならば、諦めて手放せばよい」
かか、と笑い童虎が憎たらしい事を言う。弟子と言うが、あれももう大人。聖戦も越えた。立派に育ちよった。そしてお主は教皇じゃ。女神の名において聖域のどれもこれもに公平に厳粛にせねばならぬと、お主が一番そう思っているのだから、手放せば良い、などと。
「…お前に聞いた私が阿呆であったわ」
「ホッ、意に染まぬとみえるの」
「染まぬわ。阿呆が」
あれは私が手ずから育てたのだ。言うなれば私の子。私の継。私の弟子。そして今は力なく衰えた我が一族のかけがえの無い者である。お前にはそれがわかっておらぬ。一族というものをわかっておらぬ。
「我が一族を、立て直さねばならぬ。女神の技を我が一族は継がねばならぬ」
「…ほぅ。ならばあれに嫁でもとらすか」
「なに?」
「あれに嫁を取らせて子を持たせればよい。良い血統に一族も増える」
ああ、お主でも良いのではないか?丁度良い身も得たではないかと更に言う。何を言うかと私はかちりと杯を置いた。
「一度聖域に籍をおいて、婚姻した者など見たことも無い。その様な例は聞いたことも無い」
「その前に死んでおったからの」
なればお主らが模範を示せば良いとさらりと言って、またかかと笑う昔馴染みの知己だった。私は話にならぬとその言葉を無下にする。何故どこぞの誰かも知れぬ者にあれをやらねばならぬ?やらぬわ阿呆が。
「だから訳がわからぬというのじゃ。お主は何がしたいのか」
問われ私は胸の内に自問する。いや、自問などせずともすでに知っている。そして多分、聞いた童虎も察しているのだ。きなきなと悩む私にはっきりと答えを言わせようとしているのだとわかっている。誰がお前等に言うものかと、私は意地になって口を閉ざすのだった。
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