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黄金聖闘士二次創作とたまにたわごと。ほとんど腐。羊師弟と兄さん's傾向。最近メモ化。お気軽にお声掛け頂けたら嬉しいです。

情愛〔シオン×ムウ×シオン めくでめっ!の続き〕

pixivより。めくでめっ3の続きでした。シオンサンド(笑)なんだか美味しそうだなあとおもってたんですけどシフォンサンドだったらすごい美味しそうwR18の冒頭部分だけサルベージ(`・ω・´)

 

 * * *


「…会いたかった」

 突然に、白羊宮の私室の扉が開く音がして、そこに立つ男がひと言そう言った。青みを帯びた金の髪はまだ短く、それでも己の特徴を如実に現している。ややもすれば紫にも寄る藍の瞳も、若き日によく身に付けた一族の衣服も遠い記憶にある通りだった。そして何より昨日より報告を受けているとおりの12聖宮の状況を鑑みれば、これは誠、己であると認めざるを得ないのだった。

「…シオン…貴方…」

 昨日から各宮より次々と上がる報告に旧知の者達との再会を喜ぶよりも、先の聖戦後から200年余後の己の立場の説明が物憂くて、ここに身を寄せていたものを。先ほど私の愛し子が懸念した通りとなってしまった。シオンがもう1人増える等…と。自身の背後に立つ私と入口の私を交互に見ながら困惑している私の愛し子に、来訪者がつかつかと歩み寄る。その勢いに一体何を仕出かすつもりかと愛し子に更に寄添う私の様子に頓着もせず、若き日の私であるはずの来訪者は私の愛し子の前に立ち、今すぐにでもかき寄せ抱き締めてやりたい思いをぐっと堪える様に愛しい者の手を取った。その一連の流れ。…我ながら、見事なものだ。
 会いたかったとひと言。傅かんばかりにその手に口付けられて、ぽかんと呆気にとられながらも私の愛し子の白い頬がすすと染まっていく。歴代牡羊座一の剛と呼ばれ、粗野とも硬派とも評され激情の強さを謳われた若き日の私が、この様な立ち振る舞いを身に付けていたとは。自身では中々気付かぬものらしい。これぞあの青銅の小僧どもがこの前喧しく口にしていたギャップ萌えというヤツか。いや、感心している場合ではない。
 いつまでその手に触れているかと取り上げる様に愛し子を引き寄せた。驚いて私を見る愛し子の目が、これは貴方なのでしょう?と言いたげだ。再会に胸が一杯といった様子の来訪者はその様なやり取りに気付く余裕も無いのか、ただただ愛おしい者よと見詰めている。もう一度その手を取り指に輪を見付け、ふいに目を和らげた。この輪はお前には大きかっただろうに、と愛おしげに囁くように問いかけられた愛し子は、貴方が合わせてくれましたと私に振り向きはにかむ様に言った。

「…約束は、この通り」

 愛し子の言葉にやっと場の状況を見渡した来訪者は、これがお前の師である私の姿かと私に目を留めまじまじと見詰めている。この顔、姿、そして何よりこの小宇宙の色は。何処をどう見ても鏡に映るかの様に己である。しかし。

「…髪の長さ以外、何も変わらぬとは、何故?」

 普通に考えて、愛しい者の歳以上は月日が経っているはず。更に言うならば、聖戦を越え、どれほどの月日を待ってこれを得たのかも考えると、同じ容貌であるはずが無い。不思議に首をかしげながら、童虎の所も殆ど変わらぬ姿だったが…と呟いている。そんな来訪者を見ながら私はこめかみを押さえて思わず目を閉じた。…己の中に記憶が生まれる。それはまるで遠すぎて忘れ去っていた思い出を何かの拍子に思い出す様な。いや、喪失していた記憶が突然戻り始めた様な衝撃が、頭の中にあるのだった。そんな私の様子に気付いたか、愛し子が大丈夫かと心を寄せる。私を見詰める大きな目に、そう不快でも無いのだがと笑みかけて、来訪者の問い掛けには女神の御業とその様に、とだけを言ってやる。言われた方はそうかとひと言。その事には二度と触れる事は無かった。女神の御業。なんとも便利な言葉だと感心している場合でもない。

 まずはこちらへと声を掛け、私の愛し子がもてなしの用意に場を立った。この来訪者も勝手知ったるといった所なのだろう。迷いもせずにそこに座り一息吐いている。置いてある台も椅子も、奥の部屋に見える衣装箱も寝台も、この宮は私が宮主であった頃と何も変わらぬ宮なのだった。して、状況は?と私が問うと、女神が飽きれば戻れようとシジマ殿が言っていたと私が答える。さて、どうしたものか。
 それにしても、と改めて私は目の前に座る己をつくづくと見た。まだ20に届かぬ容貌は今の私と変わりはないが、やはり心の新しさは生き生きとその表情や瞳の光には出るものの様だ。思えば先日に私の愛し子が時空の歪みに足を取られ迷った時に、2人は会っている。あれは愛し子と過去の私との奇跡の逢瀬。死闘の前の一時の忘れられよう筈の無い蕩ける様な甘い時間。私の初めて肌を合わせた相手は、私自身が愛おしみ、育てた末にその身を私に応える為に、私のこの手で拓かれた者だったのだから、その様な者を初めての相手にして忘れられる訳が無い。たった一度の逢瀬の激情が、見えぬ焼印の様にこの身に肌に沈み込んで、私のその後を決定付けたのだ。あの出来事にはそれだけの衝撃が確かにあった。その愛しい者との再会に喜び浮かれている様が、来訪者である私の顔に有り有りと表れていた。そうだった。聖戦の前哨戦に訪れた闇の眷属を払った日からじりじりと、灼ける様な焦燥を何時か分からぬ再会の約束を思う事で誤魔化した、愛しい者を求める若さを持て余した日々が確かにあった。ああ、200年余経てその切ないまでに思い詰めていた頃が、今また鮮やかこの身に蘇る気がしていた。

「シオン」

 呼ばれ、私が2人振り向くと驚いた様に目を見開いて、シオンが2人と楽し気に笑む愛し子がいる。これから天気が崩れるそうだから、早めに支度を始めると言う。

「夕飯と、貴方の滞在の支度を」

 その声に、早急に判断せねばならぬ事がある事に、今更ながら思い至った。どうやら向こうもそうらしく、私2人は同じ顔を見合わせていた。どれほどの月日を過ぎれば得られるのかと思い詰めていた矢先の女神の悪戯に、愛しい者を当然求めるつもりだっただろう。ここに私がいなければ。しかし。
 叶えてやりたい、いや、叶えたい思いが確かに私の中にある。じわり湧く記憶と共に遠い日の焦燥が身の奥を熱くする。同時に、私以外の者の手がこの愛し子に触れる等、私が許すわけがない。それを知り、私がここを退くわけが無い。同じ様にもう1人の私もまた眼を細め、唇を硬く閉じ考えている。手に届く愛しい者を強く欲しいと思い、ここは己の世界では無い事も知っている。強引に求めた手を愛しい者に振り払われる怖さも思い、もし仮に応えてくれたとしても、己が去った後、こちらの私がそれをした愛しい者を許すだろうか。不在の私は責められる愛しい者を庇うことも出来ぬ。その逡巡が手に取るように分かる。そう。私はこの時その様な事を考えていたと思い出す。

「いや、私は、遠慮しよう」

 私が何かを言う前に、来訪者がそう言った。目を細め一度唇を強く噛んだ。そうして想い焦がれた相手に向き直り、私はお前が愛おしい、会えて良かった、元の時代に無事に戻って良かったと続けた。冷静にこれが当然と強がっても、切ない思いだけは隠し切れるものではなかった。憶えている。一度目の別れよりも尚一層、身を裂かれるかの様に感じていた事。

「…お前の、困る事は、すまい」

 何よりも、お前を得た私が、それを許すわけが無い。それは私も同じ事。

「私はいつか、お前を得るとこの目で確かめたのだから」

 若い矜持はそう口走り、しかしすぐに後悔と悲しみに変わる。目をきつく閉じ、ただ一つだけ許してほしいと愛しい者を力の限り抱き締めた。首筋にその金の髪に顔を埋め大きく息をして、忘れ得ぬと強く抱く。

「…童虎の所にでも行けばよい。呑んでるうちに女神の迎えが来よう」
「あちらは賑やかだ。何でも青銅の、童虎の弟子まで呼んで賑わっている」

 それは良い、あとで伺おう。そう言う私にひとつ頷いて、部屋を出る私は二度と振り向かぬ。己が決めた事にただひたすら向う愚鈍な程の気質は変わらぬかと、自身の清々しさに半ば呆れ羨んでその背を見送った。共に見送る愛し子が息を吐き肩の力をすと抜いてこちらを振り向き拗ねたような顔をする。残念と思うか?と問うと、貴方ならどれも惜しい恋しいと素直に胸の内を溢した。

「貴方はいつもいつも、ご自身に厳しい…」

 そう言って私にその身を預ける愛し子の背を抱き耳元に口付けて、私に向う労りに許せ、と一言呟いた。

 

 

 * * *