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黄金聖闘士二次創作とたまにたわごと。ほとんど腐。羊師弟と兄さん's傾向。最近メモ化。お気軽にお声掛け頂けたら嬉しいです。

祝祭〔ロスサガ〕

pixivからサルベージ。

ロス兄誕SSでした。英雄が死んでる間に何してたかっていう話なのですが、こういう訳がわからないのが好きで、稚拙ではありますが書いてて楽しかったです。完全なる俺得(笑)冒頭のところはなんとなくエルシャダイをぼんやりと思いながら書いてました。ていうか宗派間違ってますよっていう感じですね…。でもすきっ!

 

 

* * * *

 

 長い間、私は揺蕩うていた。


祝祭



 ここに着て暫く経ったころに気が付いた
ここには、時を刻むものがないことを。

 白い。大理石の壁に四方を囲まれた部屋は
幾重の柱高く、その隅々まで荘厳だった。
座る椅子、使う机は切り取られた木片ではなく
未だ地に這い生きる揺らぎをみせる木々。
自身の手元から立つ羽根ペンの先が紙をけずる音と
緩やかにこの手元に届く天窓からの光だけが
ここにある。白い部屋。

 神の子を 救いし 男は その父に
 愛でられ その膝元に 召せられた
 その時 男が願った ただひとつの

 誰かの軌跡を書き記し、ふと兆す。
いつから私はこうしていたのだっただろうかと。
きっと延々と書き記していたその書から、すと顔を上げた。
見渡して、見上げると、目の前には天にも届く書庫の棚。
積み上げられた書の背表紙と紙の破片。
私はいつから、ここにいたのだだろうか。

 今まで思うことも無かった。ペンを置くという事。
この椅子から、立つという事。
いや。前にこれをしたのは何時だっただろうか。
そう。私には、行く場所がある…。

 部屋を出た。
音のひとつとて無い廊を行く。
纏う布は、この指先足先を隠し
頭から垂れる布は私を覆う。
純白のこの布を、私は知っていた。
昔日を忘れる者が纏うのだ。
ふと、静寂の廊に声が降った。

 おめでとう

 その声に立ち止まり、振り返る。

 ありがとう

 何者の姿も無いのだ。
その廊に、しかし私は祝辞への感謝を返す。
私はそれを、知っていた。
数度、それを繰り返す事。それがここに辿る為の儀式だと。

 ああ、ここ。

 やがて表れる、もうずっと開く事の無かった扉。
削り崩れ落ちた昔日の装飾が白く積もる先。
ざらつく空気は、光の中に舞う砂塵。
それもまた、天にまで届きそうな大きな扉。
重い扉は手を触れる前に、音も無く開いていく。

 穏やかな光と影に、一陣の。
目を焼く様な光に思わず手を翳し、進む。

 …君。

 天 下りし 御使いは
 その罪科により 翼折られ
 地に 縫い付けられた

 光注ぐ中、その白く脆く立つ像は
背から左肩へ、戒めの杭を受けた者。
地から突き出した槍先に貫かれ
伸ばされたその指を拾う者も無い。
静かに伝うその水は、天より降る水滴は
伏せられた瞳に凝る、残照の様。

 ああ、君…

 金であった。今は白いその髪を。
瑞々しくあった。今は硬いその肌を。
青く透いていた。今は揺れぬその瞳を。
躍動を。今は動かぬ崩れかけたその像を
私はどこかで、知っていた。

 その瞳がいつか、私の姿を映した事を。

 神の子を救ったと言われ、愛でられた。
その男が願ったただひとつの事。
日輪が弱まるこの時期にだけ、ここを訪れる事を赦された。
私が、願ったことはひとつ。

 ああ、君。忘れえぬ。

 神の属引くはらからの為、神の娘を救う為
二度、殺された君を、私は助けなかった。
私の罪は、その罰は
あれほど乞い求めた君が悠久の戒めを受け流す涙を
手立てもないまま、ただ見つめる。

「…忘れ得ぬ」

 忘れ得ぬ。必ず君を忘れない。
跪き、その先を崩れ失ったその右腕に口付けて
私は…

 

 

 

 名を呼ばれ、目が開いた。

 白々と空が開けていく窓を背に、滲むように金の髪。
青く透く瞳が私を映していた。
我が宮の奥はまだ朝は訪れぬ。手を伸ばすと、身を起した君の肩がひやりとしていた。

「何故、泣いている」

 そう問われ、気が付いた。己の顔に手をやると確かに涙の流れた跡があった。
あれは。あの夢は。なんとも言えぬ焦燥と、白い世界の寂寥の。
しかし私は長い時間、あれを繰り返していたのではなかったか?
この、あと少しで年が過ぎる頃の、日輪が弱まる、この時期に…。

 ロス、と私の名を呼ぶのは
今はもう、冷たく閉ざされた石ではない、君。

「…忘れ、得ぬ。君よ」

 ふと笑んでそう呼ぶと、金の髪がさらりと揺れた。
私の目元に愛しい者の唇が落ちる。
白い君の背に手のひらを滑らせ左の肩へ。もうあの戒めの無い事を知る。

「…忘れ得ぬ?」
「ああ、忘れないよ」

 君をと言うと、当然だ、と返る。そう言って笑む君は。
からかう様に英雄殿、と私を呼ぶ君はもう変わる事は無い。
いつまでも金色に煌いた、私の至宝。
離さぬ。二度と失わぬ。

君と別れ、暫く過ごした所の夢をみていたという私に、ふと首を傾げて君が言う。

「それで、泣いていたか。ロス」

 私が居なくて。それで。
真顔でさらりとそう言われ思わず笑った。
お前は私を愛するのだろうと、疑うことも無い。その純粋。

「そうだとも。年に一度だけは会えたけど、君はつれなくて」

 一年を巡る日輪が黄道の己の宮に入る頃、我らは生まれる。
聖域には無い習慣。誕生の日というものを寿ぐなど、あちらはなんとも律儀なものだ。
そう。あれは私が生まれた…そこまで思い至った時。

「おめでとう」

 その声に思わず青い瞳を覗く。私はそれを…。

 驚く私の胸に寄る、君の小さな笑みは存分に我をと言っている。
愛せよと。ああ、その君の穢れぬ純真な傲慢が愛おしいのだ。

 まだ日が差さぬ我が宮で。もう暫くこのままで。
愛おしい君のこの躍動を。飽く事の無いこの熱をこの腕に抱く、誕生の朝。

 

* * * *