ねくでめっ!:3〔無印黄金聖闘士+ND黄金聖闘士 シオン ムウ〕
3というか、pixivよりサルベージしました。
続きはシオンサンドでしたw
* * *
滴るような漆黒の空と足元に広がる巨大な崖。
おおお、ともごごご、ともつかぬ音がこだまの様に響き、冥府へ向う人影がぞろりぞろりと下る場所。俺はここの番人になるのだと10に満たない頃に初めて来た時から、幾度となく見てきたが、何も変わらぬ積尸気だった。
昨日までは。
じり。じり。
いつの間にあったものか、目の前には何故か棺桶。
と、その棺桶を挟んで対峙する己と同じ聖衣の見知らぬ男。積尸気では今、棺桶を挟んでお揃いの聖衣を纏ったが二人、今にも千日戦争が勃発しそうな形相で睨み合っていた。
* * *
ねくでめっ!
「私の次の代の魚座が君なのだな」
咲き誇る薔薇に囲まれたテラスに佇む人影が二人。
さらり。光が走る見事な金色の髪を優雅に背に流した男が、秀麗な目をすと細め満足げに呟いた。薄い唇に昇る笑みは見る者を引き付けて止まぬ妖艶さ。己の前に置かれたティカップをするりと撫でるその手の優美。やはり魚座は何時の代も愛らしく美しい者の星座なのだ、とその唇が言えば、貴方こそ、と感嘆の声が返る。
「先代がこの様に、高貴で麗しい方であったとは」
先の者に劣らぬ金の髪はくるりと渦を巻いてふわりと揺れる。大きな瞳は青く、長い睫に縁取られた優しげな曲線が目じりで少し下がる様が何とも愛らしい。ここは第12の宮双魚宮。どういう次元の歪みか何かの影響か、突然顔を合わせる事となった先代とその継である。
「巨蟹宮でも何やら。我等と同じ事になっている様だな」
「そう。デスマスクが今朝も何やら激高していた」
激高?はは、あの棺桶屋とか。先代の言葉に当代が首を傾げた。その、棺桶屋とは何なのだ?
「デストールが、DIY好きが高じて積尸気で棺桶を作っている」
「どうして?」
「何でも、道に迷い冥府への列から落ちた者達をそれに入れて送ってやるんだそうだ」
へえ。とアフロディーテが感心したような顔をした。蟹座の先代はなんとも働き者の様だ。それに比べて我等の蟹座は用が無いのになんであんな陰気な所、用があっても誰が好んで行くか、とばかり。
「今朝も、迷惑甚だしいどうせ来るならもう一方(LC)が来いよ!と嘆いていた」
「ははは、しかしもう一方となると、我等が魚座は大変だぞ」
ティカップにその麗しい唇をつけようとしていたアフロディーテが大変?と問う。ああ、知らぬかとカルディナーレが秘密を囁くように己の継にふとその美しい顔を寄せた。
「体液が、毒なのだよ」
「毒?!」
それは、難儀な…、とアフロディーテが同情に目を細めた。そんな身体では人とのまともな交流もままならぬのではないだろうか。
「怪我を負った時などはどうするのだろう?」
「誰にも触れさせられぬだろうな。血など完全に毒だろう」
「えっ!…では、涙などは、どうしているのだろう?」
涙など、愛する者にその唇で拭ってもらうものだろう、がアフロディーテの主張である。それで無ければ涙など流しても意味が無いではないか。布で拭くのが限界だろうなというカルディナーレにそんな!と抗議の声を上げた。
「…では、口付けの時などは?」
「深くは出来ぬだろう。したら死ぬだろうな」
「ええっ!…では…では----の時などは?」
「ふふ、死ぬのではないか?体液の最たる物だ」
「えええっ!…では…では、あの---を----などということは?」
「はは、無理だろうな」
そんな!人生の10分の7は損をしているではないか!そんな事でどうするのだもう一方の魚座!と、不在の本人が聞いたらほっといてくれ!と思わず叫んでしまいそうな事を好き勝手言っている魚座2人であった。
□ □ □
双児宮に昨晩から訪れている先代は、朝から眉間に深刻な皺を寄せ腕を組み何やら深く考え事をしている。何だ朝っぱらから人の宮で不機嫌に。朝食が気に食わぬならばとっととあちらに帰れば良いのだ、と今朝の朝食係のカノンが鬱陶しげに来訪者を見詰めていた。その様なものには頓着もせず、この来訪者の苦悩は続く。どうしたものか。
そもそも何故、私はここに居るのか。まあ、それは戻ってみればアテナの悪ふざけという事で決着しそうだからまあ良いわ。戻れるのかなどと聞くのも野暮な話だ。朝食?そんなものどうでも良い。私が目下気になって仕方ない事と言えば。
「…サガ、と言ったか」
私の遠い継の者よと呼ばれ、弟の横で千切っていたパンをすらりと長い指に摘んだまま、当代双子座の上が顔を上げた。
「いかにも。サガは私だが」
貴方は、アベルだったか?との問いに私はカインであると冷静に答える先代は、いやそんな事どうでも良いのだ、そんな事より聞きたいことがあるのだと閉じていた目をすと開いた。
「昨晩は居間をお借りでき、助かった」
「いや、こちらこそ。先代殿に大したお構いもできず」
「ここの双子座はその名の通り、見事に双子なのだな」
「見事かどうかは解らぬが、見ての通り双子だ」
そうか、と一息吐いてカノンに与えられたコーヒーを一口。更に問いかける先代双子座である。
「私はこちらをお借りして、お前達はあちらの部屋に入った」
「ああ、そうだな」
「この部屋数だ。兄弟で住むには少々難儀だろうな」
「そうだろうか」
「で、今朝にその扉が開いた時、中が見えたのだが、寝台がひとつ」
「ああ」
率直に聞くがそれはどういう事なのか。そう問うカインにサガは怪訝そうな目をしてひとつ首を傾げた。どういう事とは?と聞き返す兄に一緒に寝ているのかと訊いているのだろう、と弟があっさりと言った。
「一緒に寝ているなどと」
一つしか無い寝台を同時に使っているのだと、呆気羅漢と言い直す当代双子座に先代は体の力が抜ける思いだった。なんだそれは。お前達28なのだろう?と言うか、私より上ではないか!その年でまだ枕を並べて一緒に寝ているなどと子供ではあるまいし!
「…別に良かろう。他所の双子の事など」
「ええい!お前は黙っていろアベル!」
他所の双子なら私もここまで首は突っ込まぬが、事、私の継の者の話。関係無いなどと言わせぬわ!そう激高する兄に肩をすくめるアベルと呼ばれた男はいつの間にか双子の後ろに立っていた。先代の双子の片方というヤツは現れたり消えたり忙しない。何なのだちらちらと目に煩いヤツめとカノンが聞けば、我らはどちらかが現れればどちらかの身が保てぬ定めなのだとアベルが答えた。
「何とも不便だな。どうしてまた」
「ああ、憶測なのだが一度2つに分かれた受精卵が分化の経緯の中で再度取り込まれ…」
「そんな話はどうでも良い!というかいつまで現れている!消えろ!」
即刻寝台をもう一つ用意せよ部屋は仕様が無いとは言え別に寝ろ!これだから双子座は代々ブラコンの星裏切りの血統などと呼ばれるのだ!と、ぐっと両手に拳を握り叫ぶ兄に裏切りの血統はこの際関係無いだろうとアベルは思った。
「…ぶらこん?なんだそれは」
初めて聞く様な顔でカノンに問うサガである。お前は俗世に疎すぎるのだ、と弟は溜息を吐いた。
「兄弟が仲良くしすぎだとそう言われる事がある」
「? 呼ばれた事などないが」
「当たり前だ。俺たちは仲がよかった事など無い」
「そうか。では今はどうだ」
「まあまあ、良いのではないだろうか」
「何だその口ぶりは。まだ足りぬと言いたげな」
先代のお小言など少しも効かず同じ顔同じ髪と瞳の色の二人が見詰め合っている。だからそれは即刻やめろと言っている!!と叫ぶ先代の苦労はどうも報われそうも無い。
…ブラコンがどうかは兎も角として、お前も相当過干渉。どちらにせよどの代の双子座もちょっとおかしいのは間違いではあるまいよとアベルが呆れたように呟いた。
□ □ □
「俺は早く戻らねばならぬのだ」
昨日我が宮に現れた己の先代とかいう男は、そわそわ、いらいらと宮の右から左を行ったり来たりと忙しない。いい加減落ち着いたらどうか、とストレッチをしながらアイオリアが声をかけた。
「浮き足立ったとて、どうにもならぬだろうに」
「そうは言うが…」
お前は迎えた側だからそう落ち着いてられるのだ。俺にはやりかけていた事があるのだと、カイザーと名乗る男が言い返す。その様子にやれやれと思いながら、気配に気付き顔を上げると12宮の石段を下りてくる磨羯宮の主が見えた。鍛錬か?と問えばそうだ、と答える。その横にもやはり見たことの無い男がいる。黒髪に静かな佇まい。雰囲気が何処と無く似通うのは同じ属、同じ聖衣を纏うものだからだろうか。そちらもか、と獅子宮の主が溜息を吐いて己の隣へ視線を流した。お互いに同じ印象を獅子座の先代と継に感じたらしく、シュラは感心するような顔をした。
「カイザー、やはりお前も来てたのか」
「以蔵よ、一体これはどうした事か」
どうした事かと問われた以蔵と呼ばれた男は、知らぬと首を振った。どう言う仕組みかは解らぬが、シジマが言うには女神が飽きたら戻れると。
「…シジマも来たか」
「上にいる。まぁヤツはいつもの通りだが」
「女神を待てぬ。戻る方法はないか?」
眉尻を下げ、すっかり困り果てた知己の顔を呆れたように見た以蔵が首を傾げた。
「何をその様に慌てているのか。シジマがああ言うのなら近々戻れよう」
それよりも、己の継と拳を交える機会などもうないぞと言う先代に、いつもは冷静沈着な当代磨羯宮の主が楽しげな表情だ。それが少しばかり羨ましくて、アイオリアが俺達もどうだろう?と先代獅子座にいうが、彼はやはりそわそわと困った様な顔をした。
「…実は、ゴールディを放ったままにここへ来た」
「ゴールディ?ああ、お前が飼っているあれか」
あんな物、放って置いても誰も持ってはいかぬだろう。呆れたように言う以蔵にカイザーはただ首を振った。実は。
「飯の時間だったのだが」
「…ああ」
「おあずけと言ったままこっちに来てしまったのだ」
「……はぁ…」
カイザーは、俺が良いと言わねば奴はずっとおあずけしたままなのだかわいそうだろう?!とひどく辛そうに以蔵に訴えた。ゴールディって何だ?とアイオリアが以蔵に問う。
「…大きな、まあ、あれはすでに猫だな」
「猫?」
「違う!」
ゴールディは最早家族も同然!俺が手塩に掛けて育てたゴールディを畜生と同じにするな!と、がくがくと己の肩を掴み叫ぶカイザーの目がそろそろ潤んでき始めた。ああ、ゴールディよ…俺がいなくてさぞ寂しかろうと呟いて、とうとうそこに突っ伏してしまった知己を見て、以蔵は溜息を吐いて己の女神に訴える。ああ、この男がこれ以上取り乱して己の継に呆れられる前にどうか戻してくれまいか。
「……シュラよ」
「…ああ」
アイオリアの事がなんだかちょっと気の毒な気分になったシュラにアイオリアが言った。
「猫ってお手とかおあずけとかするのかな?するのは犬だろう?」
そこかよ。と声にはせずにシュラが呟いた。
□ □ □
じり。じり。
この睨み合いが何時まで続くのか。痺れを切らした当代蟹座がとうとう叫んだ。
「ああもう!鬱陶しい!」
俺の先代なのはわかった。わかったからもう帰ってくれ!ここはお前らの時代より200年は経ってるのだからな!そう叫ばれた方も黙ってはいない。偉大なる先代に向って何たる態度その傲慢!と声を荒げて応戦する。
「鬱陶しいじゃないわよ!己の継がこんな怠け者なんてアタシは認めないわよ!」
聞いてみれば積尸気なんて用があっても来たくないだの、日がな一日棺桶も作らずだらだらしてるだの、おまけに会得した技は積尸気冥界波のひとつだけ!そういえばアンタ、青銅の小僧にしてやられた挙句に聖衣に見放されたんですって?アンタなんか歴代蟹座のツラ汚しよとっとと聖衣を返上しておしまい!
「…言わせておけば、このオカマ野郎!」
「まあそれが先代に対する態度なの!呆れて開いた口がふさがらないわ!」
「先代先代と言うが、俺達は先代様になにもしてもらっちゃいえねんだよ!」
なんですてええええ!オカマと言われた先代の目つきがきりりと釣り上がる。
「だから!棺桶の作り方教えてあげるって言ってるじゃないのさ!」
「ア ホ が !!! なんで俺が棺桶など作らなければならないのだ!」
「アホとは何よ!馬鹿の一つ覚えに積尸気冥界波ばかり無駄撃ちしてるクセに!」
「仕様がないだろう!蟹座にそれしか技がねえんだから!」
「あるわよ!汎用性のあるいい技が!それもアンタに教えてやろうって言うんじゃないの!」
「ふ ざ け る な !!ピーチアタックなんぞ技いらんわ!!!」
積尸気の中を棺桶をはさみぐるぐると先代蟹座に追い掛け回されながらデスマスクは思う。何か間違えている。いつもいつもどうして蟹座ばかり。これは一体どういう事だ?何故こっち(ND)が来てしまったのか。どうせならあっち(LC)がよかったのにと。うわあ!
「捕まえたわああ!覚えてもらうわよ!!キャンサーオールビューティー拳を!」
「マ ジ で ふ ざ け ん な!!!」
俺は!絶対!ピーチボンバーなる技など覚えないからなあああ!というデスマスクの声がこだまする積尸気は今日も変わらず積尸気なのだった。
□ □ □
がくん。
微妙に時空が揺れた気がしてシオンは窓に近づいた。4番目の宮がなんだか騒がしい気がするが。そう呟くシオンは何時もの法衣ではなくて、今は一族の者がよく着た衣類を幾重にもさらりと纏っている。ここは白羊宮。もうすでに己の宮ではなく、今は己から技と聖衣を継いだ弟子がここの主であった。
「全く、女神のお戯れは何時の時代も変わらぬものだ」
師の独り言に、茶を注ぐ手を止め弟子が問う。
「あの人達はあちらに戻る事が出来るのでしょうか?」
「もう暫くして、あちらの12聖宮の人少なさに女神が寂しく思されよう」
そうすれば戻されるであろうよ。長椅子に戻りムウから茶呑みを受け取りそう断言するシオンに、あちらのアテナとはどの様なお方なのだろう?と首を傾げるムウだった。
「こちらの女神は何と言っておられるのです?」
「相互不干渉の決まりだそうだ」
変なところは律儀と言うか、セクト主義と言うか。まあ、いいのですが、とムウが溜息と共に呟いた。そういえば。ところでシオン。
「こちらは影響ないのでしょうか?」
「影響?」
「はい。我が宮白羊宮には」
例えば、もう1人シオンが増えるなどという事は。そういうムウにシオンはふと笑んだ。
「あちらのシオンは、このシオンであるが」
「…そうですけれど」
なんだ、シオンが1人では不足か?とにやり。弟子の腰に手を回す師に、もう貴方はなんでもそちらの方に、とちくりと言いながら、ふと笑んでその腕を形だけ退けるふりをしてそのまま師の胸に己の身体を預けた時。ガチャリ。私室の扉が開く音がした。
「…あっ」
「あ」
「………あ」
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